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データ、判断、実行、学びがめぐる仕組みを、4つのモデルで設計する
マーケティングには、市場や顧客を知るためのデータがあり、そのデータをもとに意思決定をし、施策を実行し、結果から学ぶという流れがあります。
ところが実際の組織では、データは複数のツールに散らばり、判断の基準は担当者の経験の中にあり、業務の進め方も人によって違うことが少なくありません。成果を出している人がいても、その人の進め方は組織に残らず、担当が替わるたびに最初からやり直すことになります。
生成AIが仕事の道具になったことで、この状態を変えられる条件がそろってきました。なぞるでは、マーケティングを一つひとつの施策の集まりとして見るのでなく、データ、意思決定、実行、学びがめぐる「システム」として捉えています。この記事では、その全体像を紹介します。
システム思考の研究者ドネラ・メドウズは、システムを「要素」「要素どうしのつながり」「目的」の3つで説明しました(Meadows, 2008)。目に見えやすいのは要素ですが、システムのふるまいを決めるのは、つながりと目的のほうです。
マーケティングに当てはめると、広告、Webサイト、営業資料、顧客データは要素にあたります。成果を左右するのは、それらがどうつながり、何のために動いているかです。たとえば、広告の数字と商談の数字が別々の担当者の手元にあれば、どの広告が売上につながったのかを誰も説明できません。
なぞるでは、マーケティングを次の流れがめぐるシステムとして捉えています。
この流れを一度回して終わりにせず、結果を次の意思決定に戻し続けることが、マーケティングが組織の力になっている状態だと考えています。
この循環を設計するために、なぞるでは4つのモデルを使います。
| モデル | 問い | 設計するもの |
|---|---|---|
| Marketing Data Model | 何を知る必要があるか | 市場・顧客・ブランド・施策・営業・事業のデータと、そのつながり |
| Marketing Decision Model | 何を根拠に意思決定するか | 問い、根拠、仮説、選択肢、判断基準、意思決定する人 |
| Marketing Operations Model | どう実行し続けるか | 業務の手順、役割分担、AIの使いどころ、業務アプリ |
| Marketing Governance Model | どう安全に続けるか | データの品質、権限、個人情報、AIの利用ルール、変更の管理 |
Data・Decision・Operations の3つが循環をつくり、Governance がその全体を安全に続けられる状態に保ちます。そして、組織の知識は5つ目のモデルとして独立させず、3つのモデルをつなぐものとして扱います。この点は後半で説明します。
Data → Decision → Operations → Result と回り、結果は次の Data に戻ります。中央の知識は、意思決定への根拠、実行の手順、結果からの学びとして流れに加わり、外周の Governance が全体を安全に保ちます。
最初に考えるのは、どのツールを入れるかより、組織が市場を理解し、意思決定するために何を知る必要があるかです。なぞるでは、マーケティングに関わる情報を7つの領域に分けて整理します。
| 領域 | 含まれる情報 |
|---|---|
| Market(市場) | 市場の大きさ、競合、社会の変化、トレンド |
| Customer(顧客) | 顧客の属性、行動、購買、ニーズ、インタビューの記録 |
| Brand(ブランド) | 認知、イメージ、ブランドの評価 |
| Marketing(施策) | 広告、Webサイト、SNS、SEO、キャンペーン |
| Sales(営業) | 問い合わせ、商談、受注、失注の理由 |
| Business(事業) | 売上、利益、商品、事業のKPI |
| Knowledge(知識) | 調査、提案、会議の記録、現場の経験 |
大切なのは、7つの領域を集めることより、つなぐことです。たとえば「施策 → 問い合わせ → 商談 → 顧客 → 売上・利益」までがつながれば、ある施策が事業の成果にどう結びついたのかを説明できるようになります。どこかで途切れていれば、その先は担当者の感覚で語るしかありません。
データを集めても、マーケティングがすぐに良くなるとは限りません。同じ数字を見ても、担当者によって読み方と判断が変わるからです。そこで、組織の中の判断の進め方そのものを設計します。
生成AIは、このうち情報の収集、分析、比較、仮説の候補出しを支えられます。一方で、最終的な意思決定と、その責任をどこまでAIに任せるかは、組織ごとに決めておく必要があります。AIに任せる判断と、人が持つ判断を分けておくことも、Decision Model の大切なテーマです。
この進め方には、なぞるが蓄積してきた考え方をつなげられます。優れた企業の打ち手を理由ごとトレースするマーケティングトレース、遠い市場から発想を借りる Marketing Analogy、3か月後・3年後・30年後に必要とされることを掴む Triple Three Insight は、いずれも「仮説」と「選択肢」の幅を広げるための型です。
次に、意思決定を実際の行動に変えます。ここでは、人、業務の手順、AI、業務アプリの4つを一緒に設計します。どれか1つを変えても、ほかの3つが元のままなら、仕事の進め方は変わらないからです。
たとえばマーケティングリサーチの業務は、次のように組み立てられます。
目的は、AIを導入することより、マーケティングの業務そのものを組み立て直すことにあります。手順のどこを人が持ち、どこをAIに任せるかが決まると、担当が替わっても同じ水準で業務を進められるようになります。
AIの活用が広がるほど、安全に続けるための設計の重要性は高まります。なぞるでは、少なくとも次の6つを、マーケティングシステムの一部として設計します。
| 項目 | 設計すること |
|---|---|
| データの管理 | データの定義、品質、管理の責任者 |
| アクセスの管理 | ログインの方式、権限、見られる範囲 |
| 個人情報 | 利用の目的、保存の期間、仮名化 |
| AIの利用ルール | AIに入れてよい情報、出力の確かめ方 |
| セキュリティ | 外部との接続、暗号化、記録の残し方 |
| 運用の管理 | 変更の手順、監査、改善の進め方 |
便利なAIの仕組みをつくることで終わらせず、組織が安全に使い続けられる状態をつくるところまでを、設計の範囲に含めています。
組織の知識は、Data・Decision・Operations のどれか1つに入るものではありません。調査の記録は Data に、判断の理由は Decision に、業務の手順は Operations に置かれ、それぞれが行き来することで知識として働きます。
たとえば、ある施策を見送った理由が議事録に残っていれば、翌年に同じ案が出たとき、担当者は過去の判断に立ち戻れます。理由が残っていなければ、同じ議論を最初からくり返すことになります。
なぞるが Knowledge-Based Marketing で、知識を「置く場所・つなぐ・使う道具・運ぶ人」の仕組みとして説明したのは、この行き来をつくるためです。そのため知識は、4つのモデルと並ぶ5つ目のモデルにせず、3つのモデルをつなぐ組織の資産として扱います。
ツールが登場するのは、4つのモデルを設計したあとです。ツールから考え始めると、仕組みがツールの機能に合わせて形づくられ、組織が本当に知りたいことや、意思決定したいことが後回しになります。
4つのモデルが決まると、必要なツールの役割が見えてきます。
決まった時刻に処理を流す、システム間でデータを移す、といった自動化が必要な場合は、ワークフローの自動化ツールを加えます。これは標準の構成に最初から入れず、必要になったときに選ぶ位置づけです。
これまで、人は業務ごとに別々のツールを開いて操作してきました。ツール同士をつなぐには、間に自動化の仕組みを挟むのが一般的でした。
2024年11月、Anthropic は、AIアシスタントをデータのある場所につなぐためのオープンな標準として、Model Context Protocol(MCP)を公開しました(Anthropic, 2024)。こうした標準が広がると、人がAIに依頼し、AIが必要な情報や機能にアクセスするという構造をとれるようになります。人が一つひとつのツールを操作する場面は減っていきます。
ただし、すべての業務を対話の画面で済ませられるわけではありません。KPIの確認、顧客の一覧、入力、承認のように、決まった形で何度もくり返す業務には、専用の画面があったほうが使いやすくなります。対話で進める業務と、専用の画面で進める業務を分けて設計することも、Operations Model の一部です。
4つのモデルのうち、自社でいちばん手薄なところを確かめる問いです。答えに詰まった問いから手をつけるのがよいと考えています。
この記事を起点に、マーケティングを組織の仕組みとして設計する方法を、次の順で書いていきます。考え方から入り、方法、ツール、実装の順に進めます。