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公開:2026-10-01 / 更新:2026-10-08
市場の情報を集め、広め、それをもとに動く組織の状態
マーケティング部がある。施策もたくさん打っている。それでも、マーケティングが組織として機能しているとは限りません。部署の有無や施策の数は、組織が市場から学び、それをもとに動けているかどうかとは別の話だからです。
では、マーケティングが機能しているかどうかは、何で確かめればよいのでしょうか。研究の世界で、その物差しとして使われてきたのが「市場志向」という考え方です。
市場志向の定義は、1990年に発表された2つの研究で示されました。なぞるでは、そのうち組織の「行動」に注目した定義を使っています。この定義では、市場志向を次の3つの行動で捉えます。
1つ目は、情報生成です。顧客や市場から情報を集める行動です。ここで集める対象は、いまの顧客の声に限りません。競合の動き、市場の変化、まだ顧客になっていない人のニーズも含みます。顧客インタビューをする、営業が失注理由を記録する、競合を調べる、といった行動がこれにあたります。
2つ目は、情報普及です。集めた情報を、部門をまたいで組織の中で共有する行動です。営業が聞いた顧客の声が開発に届く、調査部門のレポートを経営陣が読む、といった状態です。顧客の声を営業・開発・経営で共有する定例を持つ、調査結果を誰でも探せる場所に置く、といった行動がこれにあたります。
3つ目は、情報反応です。集めて共有した情報をもとに、実際に行動を起こすことです。商品・施策・計画・予算を変えるところまでを含みます。失注理由をもとに商品の優先順位を変える、振り返りの結果で翌期の予算配分を変える、といった行動です。
3つの要素は、順番につながっています。情報がなければ共有できず、共有されなければ、組織として動くことはできません。そして、最後の「動く」まで届いたとき、はじめてマーケティングは組織の中で機能したと言えます。
この3つの行動による定義を示したのが、Kohli & Jaworski(1990)です。同じ年に Narver & Slater(1990)は、市場志向を組織の文化として捉え、顧客志向・競合志向・部門間の連携の3つで定義しました。
「文化」で捉える定義は、組織がどんな価値観を持っているかに注目します。「行動」で捉える定義は、組織が実際に何をしているかに注目します。なぞるが行動の定義を使うのは、行動のほうが、記録や会議の資料で確かめやすいからです。「顧客を大切にしているか」は答えが人によって分かれますが、「失注理由を記録しているか」は記録を見れば確かめられます。
切り口は違いますが、どちらの定義も、マーケティング部の活動にとどめず、組織全体の動きとして捉えている点は共通しています。
3つの要素は、順番に自然とつながっていくわけではありません。情報を集めても広がらないことがあり、広がっても動かないことがあります。支援の現場でよく目にするのは、次のような途切れ方です。
ひとつは、集めたが、広がらない状態です。顧客調査のレポートが担当部署の中で止まり、営業や開発の人が読んでいない。
もうひとつは、広がったが、動かない状態です。顧客の声は定例で共有されているのに、商品の優先順位や予算配分は前年のまま変わっていない。
そして、動いたが、戻らない状態です。施策は変えたものの、その結果が次の調査や戦略の見直しに戻っていない。
この点は、私たちの共同研究(矢倉・黒澤,2025)の結果とも重なります。部門の境界を越える人の行動は、情報を集めること、広めることにはつながっていました。一方で、情報をもとに動くことにはつながっていませんでした。
つまり、部門をまたいで情報を運ぶ人がいても、それで商品や予算が変わるとは限らないということです。「動く」ところは、人の努力だけに任せず、意思決定・会議・予算の仕組みで支える必要があります。
では、3つの行動がそろう組織は、何が違うのでしょうか。Jaworski & Kohli(1993)は、市場志向を左右する要因として、経営陣、部門の間の関係、組織の仕組みの3つを挙げました。3つの条件が、集める・広める・動くの3つの行動を支え、その結果として、組織の中でマーケティングが機能します。
それぞれの条件を、もう少し具体的に見ていきます。
経営陣が、マーケティングの重要性を社内に発信し、方針を示し、部門を横断する活動を支えているかどうかです。言葉で示すことに加えて、部門をまたぐ取り組みに人と予算を出しているかが問われます。
たとえば、経営会議で顧客の声が議題になっているか。新しい商品の判断で、経営陣が顧客調査の結果を求めているか。こうした姿勢は、社員にとって「市場の情報をもとに動いてよい」という合図になります。
営業・開発・カスタマーサポートなど、異なる部門の間で、円滑にコミュニケーションが取れ、情報が共有され、協働する体制が整っているかどうかです。
部門の間に壁があると、営業が聞いた顧客の不満が開発に届かず、開発が知っている技術の制約が営業に伝わりません。集めた情報が、部門の境界で止まってしまいます。
市場の情報や顧客のニーズを生かすための制度が整っているかどうかです。評価・報酬の制度、意思決定の裁量の持たせ方、情報を管理する体制などがこれにあたります。
たとえば、評価の項目が売上の数字に限られていると、顧客の声を集めたり、他部門に共有したりする行動は評価されません。また、すべての判断が上に上がる組織では、現場が顧客の情報をもとにすぐ動くことは難しくなります。
私たちの調査でも、この3つの条件を確かめています。経営陣の支援と組織の仕組みは、市場志向に直接つながっていました。
一方、部門の間の連携は、それ自体が直接つながるというより、部門の境界を越えて情報を翻訳し、調整する人の行動を通じて、市場志向につながっていました。部門どうしが連携していることに加えて、その間に立って情報を運ぶ人がいるかどうかが問われます。
なぞるは、マーケティングを14の仕組みと、そのつながりで捉えています。市場志向の3つの要素は、それぞれ次の仕組みが担います。
市場志向が低い組織を見ていくと、仕組みそのものはあるのに、仕組みどうしがつながっていないことがよくあります。たとえば、測定・学習で結果は出ているのに、それがマーケティング戦略の資源配分に戻っていない。一つひとつの仕組みを整えることと同じくらい、仕組みの間をつなぐことが大切です。
自社の市場志向を確かめるための問いを、3つの要素ごとに2つずつ挙げます。印象で答えず、資料・画面・会議の記録で確かめてみてください。
情報生成
情報普及
情報反応
3つの要素を続けていくには、担当者が明日から何をすればよいかが具体的になっている必要があります。そこでなぞるは、優れたマーケターの行動を50の手順に整理しました。市場志向を、組織の考え方から、一人ひとりの日々の行動に落とし込むための道具です。