土湯温泉での街の歴史・文化を再解釈し、現代価値に変えることを目的としたプロジェクトを行っています。プロジェクト概要クライアント(イベント共催):株式会社森山実施期間:2025年8月~9月上旬実施地:福島県福島市 土湯温泉参加者:マーケター、デザイナー、起業家など20名以上プロジェクト背景福島・土湯温泉を「通過点」から「目的地」へ単なる「温泉地」ではなく「文化拠点」へ株式会社なぞるは、地域の歴史や文化を現代の視点で「再解釈」し、その土地に眠る本質的な価値を掘り起こすプロジェクトに取り組んでいます。なぞるを立ち上げて、最初に私たちが向き合ったのは、福島県福島市にある土湯温泉と、その地に根付く伝統産業「土湯こけし」です。課題:「通過点」としての福島福島駅は、東北新幹線と山形新幹線の連結・切り離しが行われる場所として、鉄道ファンや家族連れに人気のスポットです。しかし、観光の文脈において福島全体は「通過点」として認識されがちであるという課題がありました。震災の影響もあり、観光客数は年々減少している課題があります。首都圏からの観光客は、仙台や盛岡、あるいは手前の宇都宮や軽井沢を目的地として選ぶ傾向にあり、福島は選択肢から外れやすい現状があります。そこで、どのように地域の価値を伝え、この地に訪れる理由・意味をつくっていくかを考えていきました。街全体でマーケティングを福島駅から車で30分ほどの場所にある土湯温泉。ここで旅館業と食の6次化を営む株式会社森山と、私たちなぞるは4年前から小さなプロジェクトをご一緒してきました。その中で議論し続けてきたのは、「一企業の成功だけでなく、土湯温泉という街全体を一つのブランドとして定義し直す必要がある」ということです。訪れる理由、選ばれ続ける理由を作るためには、個店ではなくエリア全体のマーケティングとして捉え直さなければなりません。焦点:伝統産業「土湯こけし」の再解釈そこで私たちが着目したのが、土湯温泉のアイデンティティとも言える「土湯こけし」です。単なる土産物としてではなく、なぜこの地でこけし作りが始まったのか、職人たちは何を守ってきたのか。その歴史的背景には、地域の自然や暮らしと密接に関わる重要な文脈が隠されているはずです。この「こけし」を入り口に地域の歴史・文化を再解釈し、未来の価値に変えるマーケティングの可能性を探るため、なぞると森山の共催により「土湯温泉マーケティング会議2025」を開催することになりました。アプローチ:システミック × エスノグラフィー(構造と文脈の解明)本プロジェクトで採用したのは、一般的なデータやトレンド分析を中心としたマーケティング調査ではありません。「地域に住み込み、地域の生活、歴史、文化を肌で理解する」という、文化人類学的アプローチに近いリサーチと、「全体構造・システム理解(Systemic Marketing)」を統合したアプローチです。街の文化を理解するためには、「なぜこの産業(こけし)がこの場所に生まれたのか」「どのように変化し、受け継がれてきたのか」という歴史的文脈(コンテキスト)の理解が不可欠です。1. エスノグラフィー(構造と文脈の解明)私たちは現地に滞在し、職人の手仕事や土地の空気に触れながら、土湯こけしが持つ本来の価値を再発見するプロセスを重ねてきました。地域理解のためのフィールドワークも実施し、土湯こけしの現役職人さんへの直接インタビューを行いました。こけし工人・阿部国敏さん:弟子入りから15年間の技術習得プロセス、師匠からの継承、そして「制作だけでは生活が成り立たない」という現代的な課題について、生々しい実感を聞き取りました。こけし工人・近野さん:伝統こけしと創作こけしの両立、BEAMSやCHUMSといった現代ブランドとのコラボレーション試行といった、「伝統を守りながら、現代にどう応答するか」という実務的な葛藤 を直接的に理解することができました。旅館ニュー扇屋の大女将:1,500本を超えるこけしの蒐集が「単なる収集品ではなく、工人の日々の探求や変化、想いそのものを大切に集めたもの」であることが明かされました。アサヒ写真館:土湯温泉で3代続く写真館として3代目の佐藤さん。両親がこけし店を兼業していた影響で、平成16年から本格的にこけしの歴史・文化を学び始めました。こけしを「雑貨」として消費するのではなく、産地の歴史的背景や職人の想いを理解する文化的な楽しみ方を発信する重要性を語ってもらいました。土湯温泉マーケティング会議2025のイベントでは、作り手・支え手の立場それぞれから、こけしの価値・課題を語っていただきました。2. 構造と歴史の可視化(システミックマーケティング)個人のストーリーを、より大きな「時間軸」と「社会関係」のシステムの中に位置づけ直しました。地域の歴史を読み解く(時間軸のシステム)下記のような歴史を再整理していくアプローチをとっていきました。1. 時間軸の再構築こけし産業の誕生(明治18年の足踏みろくろ導入)から現在までを、年代ごとに整理。各時代における「その産業の役割」を社会的背景との対比で再解釈する2. エポックメイキングな出来事の抽出昭和初期の「学者による再発見」や高度経済成長期の「団体旅行ブーム」など、産業を転換させた重要な契機を特定し、構造を分析する3. 多元的な声の蒐集と整理職人、支援者、関連業者など、異なる立場の人々への深掘りインタビューを通じて、同じ現象を複数の視点から理解するこれらのリサーチ内容をもとに、システムマップを作成し、どのように現代価値に翻訳していくことができるかを考えていきました。これらのリサーチ内容をもとに、システムマップを作成し、どのように現代価値に翻訳していくことができるかを考えていきました。成果本プロジェクトの成果は、定量的な施策の立案よりも、価値の再発見・再定義をしたことにあります。1. 歴史の再解釈こけしが「玩具」→「観光土産」→「工芸品」→「アート」→「可愛い雑貨」へと意味が更新されてきた流れをもとに、これから求められる価値に関して再定義をしていきました。2. ステークホルダー認識の転換職人(作り手)、蒐集者・旅館経営者(支え手)、訪問者(消費者)の三者が、互いに異なる価値観を持ちながら、同じ文化を支えているという構造を可視化していきました。その中で「支え手の役割・蒐集家」が従来のマーケティングでは見落とされていたことに気づき、蒐集、継承、伝播という行為そのものを再編集するアプローチを考えていきました。なぞるのアプローチ地域マーケティングは、短期的な成果を生み出すためだけのマーケティング発想ではうまくいかないことが多々あります。街にマーケティングを持ち込む上で、地域の歴史・文化を丁寧に理解し、これからの地域産業のあり方の全体像を可視化することが大切だと考えています。今後も、歴史から価値の源泉を紐解き、ステークホルダー間の対話を設計し、現代性との接続点を発見する。そうした営為を通じて、地域が自らの価値を語り、次代に伝える基盤を共に構築していきます。参考土湯温泉マーケティング会議 2025|ハイライトレポートデータに出ない"顧客行動と文脈"をどう読み解くか ―生成AI時代に求められる新しいマーケティング思考―株式会社森山note:土湯温泉マーケティング会議2025 開催報告システミックマーケティングnoteマガジン人文知マーケティングnoteマガジン